【報告者】Eコース 寺木啓祐
【概要】
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)でみられる症状群(重度の疲労感、睡眠障害、集中力低下、うつ、認知機能障害、全身の痛み、自律神経障害等)は、主に脳内の広範な神経炎症が関与しているということがわかってきていますが、一般的な治療は各症状に対する対症療法が中心であり、治療抵抗性を示す難治例であることも少なくありません。 その一方で、渡辺先生や小泉先生、申先生の今までの講演や実績から、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の病態や症状に対して、遠絡療法は理論的にも臨床的にも効果が期待できる治療法であると考えられます。
また、一部では和温療法(温熱療法)が効果のある治療法として実績をあげていることから、当治療室では治療院レベルでできる工夫として、遠絡療法に簡単な温熱法を合わせて相乗効果を期待する施術を試行しています。
今回、中等症レベルの筋痛性脳脊髄炎ではあるものの、当施術法によって速やかな改善がみられた症例を経験しましたので報告します。
【施術における工夫】
和温療法は遠赤外線乾式サウナによる全身の温熱・保温・安静を合わせて行い、深部体温を約1℃上昇させることにより血管機能を高めて、様々な難治性症状にも実績をあげている治療法です。(※参考 和温療法サイト http://www.waon-therapy.com/ )
遠絡療法もライフフローの調整による循環改善が効果をもたらす治療法であることから、双方を組み合わせて行うことで効果が増強されることが経験されています。しかしながら、個人治療院レベルで和温療法を行えるようなサウナ治療室を設置することは困難であることから、市販の遠赤外線マットと電気毛布、保温アルミシート入り毛布を利用することによって柔らかな全身温熱・保温状態をつくり、その状態を維持しながら遠絡療法を施術する工夫を行いました。
施術用ベッドに下から
・電気毛布
・遠赤外線マット(オーラストーン繊維)
・一般タオル
患者の上から
・遠赤外線マット(オーラストーン繊維)
・一般タオル
・アルミシート入り保温毛布
患者を遠赤外線マットと毛布で包みこみ、
下から電気毛布で軽く加温します。
遠赤外線マットの輻射熱とアルミシート入り毛布の保温による柔らかい温熱状態と仰臥位での安静状態を維持したまま施術を行います。
督脈のトリンプルは通常通りに行い、
押し棒による手技も仰臥位で行います。
※施術前後の体温変化:
当該症例患者を含む10名に対し、40~50分前後の施術前後に鼓膜温で測定したところ施術後に0.4~0.6℃程度上昇していた。比較するために押し棒の手技を座位で行った場合(別の日の測定)には施術前後の体温変化は見られなかった。
【症例】 58歳・女性
主訴 全身倦怠感と過度の疲労(週に4~5日は起き上がることもできない)
全身の関節痛、部腰脊柱管狭窄症
病歴 53歳 関節リウマチ 内服で安定
55歳 全身倦怠感、易疲労感が現れる
卵巣がん 手術摘出、放射線治療
強い倦怠感と疲労感が増悪 筋痛性脳脊髄炎の診断を受ける
58歳 症状がさらに悪化、週に4、5日は寝込んでいる状態
少しの動作でも2日位動けなくなる、最低限の生活動作が限界
内服・治療歴 アザルフィジン
和温療法(2017.9.閉所恐怖症のため1回で断念)
Bスポット療法(2017.10~)
【治療経過】
処方 1) To/2d+c+a+T2~6+L2~S3
2) lAyIII/bc+c+a+d/bc+c+a+d
3) lAxIII/bc+c+a+d/bc+c+a+d
4) rAyIII/bc+c+a+d/bc+c+a+d
5) rAxIII/bc+c+a+d/bc+c+a+d
6) 両側AxIII/6+5+4/6+5+4
7) 両側AxIII//6/3!
※当院の処方
脳内の神経炎症を想定した場合には両側AyIIIを行っています。
6) の補強を行うと躯幹部を中心に全身の軽快感が出るような印象があるため、
全身の倦怠感や脱力を訴える場合に追加することがあります。
2017.8.23. 初回治療 翌日まで倦怠感がなく行動できたが、その後3日間寝込む。
2017.8.31. 2回目 今回より温熱・保温を追加した方法で施術。
治療後1週間ほど調子がよく外出もできた。
2017.9.13. 3回目 調子が良い日が増えた。
2017.9.30. 4回目 9/29から倦怠感で寝込んでいたが、治療後は軽快。
2017.10.5. 5回目 疲労感・倦怠感は軽くなり、9月は寝込んでいる日が少ない。
以降10月は週1回の継続治療で疲労感・倦怠感はほとんどなくなり、普通に生活できるようになった。11月以降は2~3週に1回のペースで体調維持を図っている。
【考察】
まだ温熱・保温を加えながらの遠絡治療の効果を明確に提示することはできませんが、少なくとも体温上昇とリラクゼーションの効果によって、遠絡によるライフフローの調整がサポートされることが推測されます。特に間脳蓄積、脳幹部・脊髄の障害、末梢神経障害による症状(自律神経失調、中枢神経性の痛み、CRPS、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎、全身の疲労感 等)など、中枢神経系の症状に対しての遠絡の効果を増進するような印象があります。引き続き症例を増やして効果を検討して参ります。